会報「商工とやま」平成25年7月号

特集1 
学生たちが人をつなぎ、まちの魅力を引き出す
 富山まちなか研究室 MAG・netでの学生たちの取り組み


富山市総曲輪通りの富山まちなか研究室・MAG.netを拠点に活動を続けてきた学生たち。商店街や企業などとのコラボであたらしいまちなかの魅力を引き出し話題を提供しています。まちなかの活性化に向けて仕掛けてきたイベントなどその試みについて、富山大学経済学部4年の森角太地さん、同じく経済学部4年の小川祐生恵さん、富山大学芸術文化学部4年の藤原里帆さんにお話をうかがいました。


まちの賑わいを学生の手で


 2011年7月にオープンした、富山まちなか研究室。愛称は大学生たちが考えたMAG.net(マグネット)で、総曲輪通りの一角に設立されました。MAG.netは、磁石のように人を引き付ける存在となり、ここを拠点に新たなネットワークが生まれることを期待して学生たちがつけた名前です。

 富山市では以前から、富山国際大学や富山大学と包括協定を結び、大学生たちが参加し清掃・挨拶の活動を行ってきた「T-angels」、お絵かきプロジェクトや山王市での企画やまちの情報発信を行う「街なかメイクアップサポーター(以下、街アップ)」の活動を通して、まちづくりや賑わいづくりを推進してきました。

 しかし、残念ながら、一部の大学生が活動に係わっているだけでは、中心市街地への活性化の具体的効果はあまり表れていませんでした。大学から中心市街地が地理的に離れていることや、まちのことをあまり知らない学生が多いことなどから学生の来街につながらず、単発イベントにも限界がありました。

 そこで、継続的に学生がまちづくりに係わり、まちに来る学生や若者たちを増やすための活動拠点として富山まちなか研究室が開設されました。運営は株式会社まちづくりとやまが行っています。


たまり場、語り場、学び場、演じ場として


 富山まちなか研究室のコンセプトは、「たまり場、語り場、学び場、演じ場」という4つの役割を持った場として、学生とまちの人とがコミュニケーションを図ろうというもの。

 大学生に限らず、高校生、専門学校生などが利用・参加でき、学生たちが気軽に集い、まちづくりについて学び、語り合う場の提供を行っています。その中で、学生たちのまちづくりに対する当事者意識と誇りを醸成し、恒常的な若者の来街促進を目指しています。

 また、まちなか研究室を通して、学生と商店街、住民、企業などとの交流を生み出し、連携した事業を実施。イベントや新商品の開発などの具体的事業に繋げています。これらの活動を通して、大学生のアイデアを活かした中心市街地の活性化を目指しています。

 たまり場としては、街なかメイクアップサポーターなどの学生団体の拠点としての利用。サークルの活動拠点。若者向けの街の情報のたまり場(大学情報・店舗・アルバイト・イベント情報)などとして利用されています。

 また、語り場としては、商店街との意見交換の場、学生企画による市民向け講座やワークショップを通した住民との交流の場。商店街や住民からの大学への調査・研究の依頼の場。学生団体とまちづくり団体の交流の場として活用されています。

 学び場としては、大学の授業やゼミを実施したり、中心市街地の調査、フィールドワーク、商店街との共同研究を実施。

 演じ場としては、研究成果の発表、サークル(アート・音楽)活動の発表の場となり、市民団体を交えた発表会も学生が企画しています。


山王まつりでも学生が活躍


 富山大学経済学部4年の森角太地さんと、同じく経済学部4年の小川祐生恵さんは、街アップとして1年生から熱心に活動を続け、現在では約25人の参加学生のリーダーとなっています。

 今年の山王市でも、街アップの学生たちはこども御輿やお化け屋敷を企画・運営して大活躍しました。

 そのほか、毎年実施しているお絵かきプロジェクトでは、市内の約20の幼稚園・保育所の子どもたち400人程が、テーマに合わせて設けられた段ボールに絵を描く企画を実施。学生自らが幼稚園や保育園に出向き、企画の説明を行うなど、学生が積極的に関わってきました。森角さんは、次のように話します。

 「まちなかで子どもが遊ぶ機会が少なく、子ども向けのお店などもあまりないですね。でも、こうしたイベントを通して、まちなかで子どもたちに遊んでもらい、楽しい思い出を作ってもらうことが、まちの将来に、何らかの形でつながっていき役立つのではないかと考えています」

 イベントのほかにも、普段から「まちなか塾」として、放課後の地域の小学生の宿題を手伝ったり、いっしょに遊んだりと、この場所を拠点に、学生と地域との新たなつながりが生まれています。


企業からの依頼でマップを作成


 そのほか、企業や団体との連携も行い、富山地方鉄道からの依頼で、市内電車沿線のマップを作成しました。

 「以前、街アップで作った手描きのマップを見て気に入って下さった地鉄さんから依頼がありました。限られたサイズで遠くからも見えるように工夫したり、すべての電停を入れるという条件に苦労しながら作りました」と話すのは小川祐生恵さんです。

 このほかにも、まちなかで参加企業からのまちづくりに関するミッションを長期間にわたって体験する「MAG.net的インターン生活」などのプロジェクトも行われています。

 これは就職活動に備えて学生たちが社会経験をするもので、例えば、株式会社新日本コンサルタントからは、「楽しい乗り物」公共交通PRプロジェクトとして、公共交通の利用促進をはかるためのアンケート調査や乗車体験レポート、乗車して楽しむ方法の紹介などをWEBで発信するというミッションが学生に与えられ、公共交通のPRを学生が行っています。

 北日本新聞社とは就活力アップミィーテング、株式会社シー・エー・ピーとは、月刊誌タウン情報とやまの特集ページで、学生がまちなかの店舗や新商品をモニター体験し、情報を発信する「学生モニター事業」を実施。このように企業や団体との連携も積極的にすすめています。


学生まちづくりコンペティションを開催


 そして、2012年から実施している「学生まちづくりコンペティション」。学生が企画したアイデアを募集し、公開プレゼンテーションの審査を経て、優秀な提案には事業費を支払い、商店街などとの協働によって事業を実施するものです。昨年は12団体が発表し、そのうち6事業が採択されました。

 しかしその後、採択されなかった残りの事業に関しても、学生たちが熱い思いを持ち寄って集結し、3日間にわたる合同イベント「街muchまーち」の開催へと結びつきました。これは同コンペに応募した富山大学芸術文化学部4年の藤原里帆さんが中心になって呼びかけ、実現したものです。藤原さんは次のように振り返ります。

 「事業費が有る無しに関わらず、いろんな学生と交流していくなかで、折角ここまで出し合い、話し合った企画をやめてしまうのはもったいないと思いました。

 不採択になった団体にも声をかけて採択事業と合わせて実施することで、普段はあまり交流のない学部同士や学生同士に、さらに深いつながりができるのではないかと考えたんです」

 商店街の回遊性も考えて、総曲輪、中央通りの数カ所にイベント空間を設置。富山大学からは、まちなかモザイクアート、まちなかCMソング、芸術文化学部の学生によるゲイブンシテンなど5団体が参加しました。

 そのほか、富山北部高校が実施した21mもある世界一長いかまぼこを来街者と巻いて作るイベントは大きな話題になりました。また、富山高等専門学校は飲食店のパンフレットを作成。慶應義塾大学の研究室は、まちなかの店の人の魅力を探るポスターを作成し展示するなど、学生たちの斬新な発想は大きな反響を呼びました。

 「反省点は多々ありましたね。パンフレットやFBで告知しましたが、当日初めてこのイベントを知ったという方が多く、告知方法をもっと検討すべきでした。地元商店街の方とも、もっと一緒に取り組めたら良かったと思います。

 でも、学生が楽しんで運営していましたし、その楽しさが、参加した方たちに伝わったのを実感できました。子どもたちもすごく喜んでくれて、笑顔が返ってきたのがうれしかったですね」

 学生まちづくりコンペティションは今年も開催されています。今年も商店主や富山商工会議所青年部のメンバーらがアドバイザーとなり学生とともに企画を練り上げていきます。

 藤原さんは今年は4年生のため、企画提案には参加しないそうですが、後輩たちの相談に乗ったり、全体の動きを見ながらアドバイスしたり、各団体をつなぐ役割をしていく予定とのことです。


MAG.netという場


 2年間のまちなか研究室での活動は、学生さんたちにどんな影響を与えたのでしょうか。

 森角さんは、「毎日のようにこの場所に来ていますが、ここで友達ができたり、勉強したり、地域の小学生と遊んだり、まちで知っている方と挨拶をしたりと、つながりが広がりました。高校生や大学生たちのまちなかでの居場所ができたことは何よりよかった。後輩たちもまた活動を始めていますし、ここを拠点に活動ができるということはすごくいい場所ですよね」

 藤原さんは、「芸術文化学部は高岡キャンパスですから、頻繁に来られませんが、来るたびに新しい情報が得られたり、人のつながりもどんどん増えていきました。いろんなことを知ることができて、ここに来るだけでもすごく価値がある場所」と語ります。

 小川さんも、「ここに来ると知っている人がいて、話ができるというのは楽しい」と話してくれました。

 富山大学の学生の約7割は県外出身者で、実は中心市街地のことはほとんど知らないのだと言います。

 また、富山出身者であっても、まちなかには学生たちが手頃な値段で買物ができるお店が少なく、駅前を除いて、普段の生活ではほとんどまちなかに出てくることはないとか。

 大人が考えるまちなかのイメージと学生のイメージとでは、大きな隔たりがあるそうです。そのことを前提に考えると、学生たちの率直な意見や感想、そしてアイデアに耳を傾けることは、とても貴重なことではないでしょうか。

 今後も、この場所を拠点に、若者たちの様々なアイデアが生まれ、まちや大人たちに新鮮な驚きと刺激を与えてくれることを期待したいと思います。


富山まちなか研究室MAG.net
 富山市総曲輪3-3-14
 TEL:076-456-5076
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