会報「商工とやま」平成26年7月号

特集1 
富山の寿司の魅力を広く伝え、次世代につなぎたい
   富山正統すし研究倶楽部


 平成24年に設立された「富山正統すし研究倶楽部」では、富山ならではの寿司の魅力を発信しようと、精力的に活動を展開中。同倶楽部代表の吉田健作さんに、その活動内容や目的、今後への思いについてお話を伺いました。


寿司の魅力を発信するDVDを作成


 富山を代表する味覚といえば、やはり「寿司」。富山湾の新鮮なネタを使った寿司の美味しさは、県外客にも絶大な人気を誇ります。

 富山正統すし研究倶楽部では、北陸新幹線の開業を来春に控え、富山の寿司の魅力をPRするDVDを昨年制作しました。同倶楽部代表の吉田さんは次のように制作への思いを語ります。

 「富山の寿司の魅力をより深く知っていただき、リピーターを増やそうというのが目的です。ご来店されたお客様にこのDVDをお渡ししたり、富山で開催される学会などで、お土産として配布してもらいました。

 ご覧になった方の反応がとても良く、まだ食べたことのないネタが出ているから、富山にまた食べに来たいという声や、お土産用にまとまったご注文もいただいています」

 DVDは5つのチャプターで構成され、43分の内容。まずは富山の観光案内からスタートし、富山の自然環境、富山湾での漁の風景、豊富な寿司ネタと魚の両方を紹介する寿司ネタ図鑑、寿司職人の技、店舗の紹介と続きます。

 また、日本語ばかりでなく、英語・中国語版(10月完成予定)も作成するなど、昨今の世界的な寿司人気にも対応した充実の内容となっています。


自然の恵みたっぷりの富山の寿司


 富山で美味しい寿司が生まれる背景は、やはり、恵まれた富山の自然環境です。立山連峰を始めとする3000メートル級の山々と、水深1000メートルを超える日本海に囲まれた富山県。富山湾の海底は天然の「いけす」と呼ばれる独特の地形が特徴で、そこに北アルプスの豊富な雪解け水が流れ込み、多種多様な魚の棲息を可能にしています。この世界的にも珍しい自然の営みや、味の決め手となる米とそれを育む水の良さなど、美味しい海の幸、山の幸を生み出す富山ならではの自然の恩恵がDVDで紹介されています。


富山の魚と寿司が美味しい理由


 富山湾の寿司ネタとなる魚は、全国的にみても種類が豊富です。深海から近海、沿岸に棲息する魚、そして回遊魚など多種多様な魚が獲れる富山湾は魚の宝庫です。

 そして、漁場から港までの距離が近いことや、獲れたての魚を活き締めにしたり、魚を傷つけないよう、冷水、氷の使い方などを工夫したり、魚に合わせたきめ細かな鮮度管理が徹底されているため、抜群の鮮度を誇ります。


実際の漁の様子を紹介


 このDVDでは、寿司を楽しむ客ばかりでなく、寿司職人にとっても参考になる様な、富山湾での実際の漁の場面が紹介されています。甘エビ、シロエビ、バイ貝、ベニズワイガニ、ホタルイカ、そして、ブリ漁など、これまで吉田代表が自ら、富山湾で取材・撮影してきた映像が中心に使われています。

 「これらの映像は、元々、自分で使うネタは、どんな風に獲られているのか見たいと思って漁船に乗せてもらい、撮影したものです。一般的には漁の様子は職人も目にすることは少ないですから、寿司屋にとっても勉強になる内容ではないでしょうか。これを見れば、お客様にもどんな風に獲れる魚なのか説明ができるようになりますからね。
 また、お客様の中には、こんなに苦労して獲っているなら、粗末に食べてはいけないねと言って下さる方もいらっしゃるんですよ」

 富山県民でも実際に目にすることは少ない漁の風景や魚の生態の説明は、貴重な映像資料です。また、約80種類の寿司とそのネタとなる魚を組み合わせて紹介するなど、とても興味深い内容となっています。 

職人の見事な技を披露


 そのほか、様々な職人の寿司の握り方、見事な包丁さばきも紹介しています。握り寿司のほか、巻き寿司、いなり寿司、細工寿司、こはだの下ごしらえ、だし巻き玉子やかんぴょう巻き、押し寿司やさばの棒寿司の調理方法、また、笹を切る技術など、普段、じっくり目にすることのない職人の技の素晴らしさを改めて発見できます。

 タイトルに「保存版」と付けられている通り、寿司の魅力と、富山ならではの豊富なネタを余すことなく伝える完成度となっています。


寿司文化を楽しく伝える出前教室


 富山正統すし研究倶楽部は2012年の春に設立。富山市内の約20軒のすし店が参加しています。

 倶楽部の目的は、日本の寿司文化を正しく伝えることや、寿司職人の育成、寿司を通じての社会貢献、情報交換などを行うことです。

 毎月定例会を開いている他、各団体や富山市内の小学生を対象にした出前寿司講座、寿司作りの教室などを開催しています。

 富山商工会議所の「支店長交流会」で講座を実施したり、富山大学附属小学校や堀川南小学校、富山国際大学などでも出前教室を開いてきました。子供向けの教室などでは、寿司文化を紹介するとともに、巻き寿司の作り方も指導しています。

食材には人の知恵と役割がある


 出前教室では「すしは世界の共通語」と題して、日本の寿司の歴史や、今や世界各国に広がっている寿司文化を紹介しています。

 200年前の江戸時代、氷も冷蔵庫もなかった時代から作られてきた寿司には日本人の知恵と食文化が凝縮されています。

 例えば、ワサビには殺菌作用があることや、お茶のカテキンは口の中の脂分を取ってくれること。また、笹には抗菌・殺菌作用があることや、笹は時間が経つと枯れるため、笹がいきいきとしているうちに食べてくださいという寿司の鮮度を示すものであること。そのほか、バクテリアを殺すための湯引き、あぶり、洗いなどの調理方法。包丁の種類、よく切れない包丁を使うと、食材にバクテリアが入りやすいことなども説明しているそうです。

 「笹を切って、蝶などの形を作る笹切りの実演では、子供たちは拍手喝采をして、とても感動してくれます。
 私は、いつも子供たちに、英語を学び、寿司を作る技術があれば、世界各国を回り世界一周ができるよという話もします。夢が広がるような楽しい話をしながら、その中から1人でも2人でも後継者が出て来て欲しい。将来を担う人材を育てるための種まきになればと思っています」

 子供たちが教室後に書いてくれる感想文には、寿司作りの面白さや職人の見事な技に触れた感想がいきいきと表現されています。これは、教室に参加し、指導に当たった店主の皆さんにとっても、大いに励みになっているそうです。今後も、様々な活動を通じて、寿司の魅力をより広く次の世代に伝えたいと倶楽部の皆さんは考えています。

海外でも講演と実演活動を展開


 吉田代表は海外での講演や実演経験も豊富で、北米、南米、ヨーロッパ、ロシアなど世界各国を訪れ、日本の寿司文化を伝えています。海外でも寿司は大人気ですが、主に巻き寿司が好まれ食べられているそうです。

 「例えば、メキシコではマンゴーやアボカドとエビの天ぷらなどを組み合わせた巻き寿司が人気です。マンゴーもアボカドも大きく薄くスライスするように切るのですが、これは日本人の発想にはなかったもの。マンゴーは甘味と酸味があり、よく合うんです。また、ポン酢のようなライム醤油につけて食べるんですよ」

 現地の職人は1日に何百本と巻き寿司を作るため、とても上手だそうです。食品用ラップを使って裏巻き(海苔を内側に巻く)で寿司を作るのですが、この方法では、素人でも上手に作ることができます。

 また、ロシアではイタリア料理店でも、なぜか寿司を出している店があるそうです。それほど、寿司人気が高いとも言えます。吉田代表は海外に行く度に、現地の店を見学したり、職人と交流して、海外でのさまざまな寿司店や寿司文化を取材・撮影しています。

 「それぞれの国で揃う食材を使い、現地の味覚に合った寿司が工夫されていて、私たちもとても勉強になり、収穫も多いんですよ」

 海外では日本のように魚の産地や時期、大きさにこだわることはなく、鮮度の良い魚が手に入りにくいため、寿司に使われる食材は大きく異なります。しかし、日本食で一番喜ばれるのが寿司であることに変わりはありません。

 「すしは世界の共通語」というフレーズは、まさに吉田代表の豊富な海外経験から生まれた言葉です。

 今後も、多彩な活動が予定されている富山正統すし研究倶楽部。北陸新幹線開業後に向けて、富山の食文化、すし文化を発信する重要な発信基地となっていくことでしょう。

※富山正統すし研究倶楽部DVDは1枚2000円で、同倶楽部のホームページからも購入できます。
富山正統すし研究倶楽部
●お問い合わせ
   すし健
 富山市桜木町8−15
 ・076-432-4493


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