会報「商工とやま」平成27年2・3月号

県内企業人材養成モデル推進事業 事例紹介G

目に見えない思いも、温かなサービスにかえて

北陸新幹線開業で、県東部の交流拠点としてさらに躍進へ

  日本海シーライン開発株式会社・ホテルグランミラージュ


 富山商工会議所は、富山県が実施する「県内企業人材養成モデル推進事業」を受託しており、新規学卒者と中小企業のマッチングとサポートを行ってきました。
 「県内企業人材養成モデル開発事業」を受託した企業では、新規学卒未内定者等を1年間雇用し、人材養成計画のもと、実務や訓練等が行われます。平成22年度以来、これまでに87社で128名が採用されました。本誌では、この事業を活用して人材養成を実践した企業をご紹介しています。
 今回は、平成25年度に当事業を活用した日本海シーライン開発株式会社・ホテルグランミラージュ取締役統括部長の中村高久さんと、当事業によって育成・採用された営業企画部宿泊担当の松田多恵子さんにお話を伺いました。

上質さが魅力のシティホテル


 魚津市の日本海シーライン開発株式会社は、平成19年からホテルグランミラージュを運営しています。同ホテルは魚津市内唯一のシティホテルとして、75の客室と600人まで収容可能な宴会場、和洋の直営レストランやチャペル・神殿などの婚礼施設を備え、1年を通してさまざまな催事や婚礼、また、法要などに広く活用されています。
 魚津駅前からは徒歩5分で繁華街も近く、上階の海側からは富山湾や能登半島、イカ釣りなどの漁り火を望むことができ、山側からは立山連峰の大パノラマが眺められる絶好のロケーションにあります。広々とした清潔な客室、洗練されたインテリア、山海の幸に恵まれた魚津の地の食材、おいしい地下水を生かしたお料理も人気です。
 そして何より、顧客のニーズに丁寧に対応する質の高いサービスで、利用者からは高い評価を獲得。地元の方はもちろん、ビジネス客や観光客などの多くはリピーターとして利用されています。

北陸新幹線開業と個人客の増加


 近年は団体旅行が減少し、個人旅行の需要がますます高まっています。また、北陸新幹線開業によって、国内外を問わず、さらに多様なお客さまが利用されることが予想されます。ホテルグランミラージュ取締役統括部長の中村高久さんは、次のように語ります。
 「最近ではネットやスマートフォンでの個人のお客さまのご予約が増加傾向にあります。一度ご利用いただければ当ホテルの良さを分かっていただき、リピーターになっていただけることが多いのですが、遠方のお客様、ご利用いただいたことのないお客さま向けに、今後、ネットでの情報発信をいま以上に充実させる体制を整えていきたいと考えています。そのほか、アジアなど外国からのお客さまの宗教や宗派によって異なるお食事への対応。また、これからは黒部宇奈月温泉駅からのアクセスの充実が必要ですね。魚津周辺の観光案内についても地域の案内所と連携して情報を一元化したり、充実させることも検討課題です。これはホテルだけの問題ではなく、地域全体で検討し充実させていくことが大切だと考えています。
 また、地元の方に、ホテルはまだまだ敷居が高いと思われがちなところがあります。いつでも気軽にご利用いただけることをPRしていきたい。気軽な会食会やランチ、地域の集まりにホテルのロビーを使っていただいても大丈夫なんですよ」

環境の良さ、豊かな人員を活かす


 新幹線開業による人の流れや経済効果に加え、2年後には魚津桃山運動公園で全国植樹祭が行われ、さらに、5年後には東京オリンピックが開催されます。オリンピックの合宿地候補としても富山県の優れた環境は大いにアピールできるのではないかと話す中村取締役。
 「注目すべきイベントの情報収集や対応を検討しながら、より多くのお客さまに当ホテルを選んでいただけるよう努めていきたいですね。
 また、ここにはシティホテルならではの人員の豊かさがあります。スタッフ間の伝達や連携の質を高め、お客さまお一人おひとりへの細やかな気配りやサービスを向上させていきたいと考えています。
 お客さまの好みはそれぞれ違います。例えば、朝食の梅干しの塩分に至るまで、小さなひと言やご要望も聞き漏らさず、次回のサービスに反映してご満足いただけるようにするのが、私たちの役目。そういった気配りこそが、当ホテルが選ばれる理由になると思うのです。そのためにも人材育成が大切なんですね」

ホテルでの人材育成の難しさとは


 松田多恵子さんは新潟県糸魚川市出身で、富山大学を卒業後、今回の事業を通して育成、採用されました。
 当初からフロントスタッフとして、宿泊の受付や清算、客室内のチェック、ロビーでのお客さまのご案内、レストランでのサービスなど、ホテルの重要な業務をOJTで先輩から習い、また、OFF?JTを通して、社会人としての基礎的なパソコンスキルやビジネスマナーなどを学んでいきました。
 ホテルは365日、24時間営業しているため、一斉に業務を止めてスタッフを研修することはできず、そこに人材育成の難しさがあります。しかし、今回、この事業を活用することで、通常通りの人員のシフトで業務を行いながら、松田さんには、余裕をもっていい刺激となる外部研修を含めた教育が可能になったと言います。
 「経済状況が安定しない世の中で、企業側、学生側ともに余裕が生まれるこの人材育成の制度を活用するメリットは大きい」と話す中村取締役。
 松田さんは研修期間を次のように振り返ります。
 「お客さまからのお電話も、最初はお名前も分からず、いろいろな対応でパニックになってしまうことも多かったのですが、半年過ぎる頃からは徐々に馴れてきて、少しは落ち着いて対応できるようになりました。
 1年経って、魚津での季節ごとのイベントや様々な人の流れをひと通り経験したことで、心の余裕も生まれてきました」
 常連のお客さまには、先方が名乗られなくても、こちらから自然にサービスを提供しなくてはいけない場面も多く、「コミュニケーションの難しさを感じますし、お客さまがどういう思いで、何を望んでいらっしゃるのかを察するのが一番難しい」と話す松田さん。先輩のもとで、現在も日々、経験を積み重ねています。
■ホテルグランミラージュの人材養成計画実績表
 (松田さんが実際に行った1年間の研修内容)

初めて訪れる旅行者への対応を


 そんな中でも、松田さんは仕事へのやりがいを感じ始めています。
 「毎日、お客さまと接しているなかで、『お部屋がきれいでよかった』とか、『魚津で一番のホテルと聞いて来たのですが、実際にいいホテルだった』となどと言っていただいたときは、本当にうれしいですね。
 でも、お客さまからは思いがけないご質問をいただくこともとても多いんです。例えば、魚津の名産であるリンゴを使ったお菓子が買えるケーキ屋さんはありますかとか、雨が降っても子供が室内で遊べる施設を教えてほしいなど。プラスアルファのサービスができるまでには、まだまだ経験も知識も必要です」
 新幹線開業で初めて魚津市を訪れる旅行者の利用も多くなるため、魚津市内や周辺の観光スポット、また飲食店などについても自分自身でも足を運んだり、さらに情報収集していきたいと意気込みを語ります。


目に見えない思いを察する人間力


 お客さまが想像していた以上の上質なサービスやスタッフの温かなおもてなしが、ネットの口コミ欄でも高い評価を受けているホテルグランミラージュ。
 これからも「選ばれるホテル」として価値を認めていただくために、中村取締役は、「お部屋を整え、レストランで確かなお料理をお出しするのは当然のこと。その先の見えないものを大切にしなければなりません。お客さまの言葉や表情から、いかにその思いをくみとっていくかがサービスの重要なポイント。お客さまが我慢することなく思いを伝えられ、かなえることができるホテルでありたい」と語ります。
 地域や国内外からの人々の交流拠点となるシティホテル。新幹線開業に伴うメリット、デメリットをしっかり捉え、よりきめ細かなサービスと人間力で対応していくことが、ますます求められていきます。

●日本海シーライン開発(株)ホテルグランミラージュ
魚津市吉島1−1−20
TEL:0765−24−4411
http://www.granmirage.jp/