会報「商工とやま」平成29年2・3月号

シリーズ 老舗企業に学ぶ30
人生に寄り添って着物のすばらしさを伝える きものブティックあおき


 「天文台のある呉服屋」で知られるきものブティックあおきは133年の歴史があります。あえて多店舗経営はせず、お客様それぞれの人生に寄り添って着物のすばらしさを伝えていく姿勢は明治17年(1884年)の創業以来、変わりません。1年365日を和服で過ごす女将の青木りえ子さんに、お話を伺いました。


三世代にわたるお得意様も


 初代でりえ子さんの曾祖父である青木栄吉さんは香川県の出身。大阪市内に「青木呉服店」を創業したのが始まりです。
 その後、第二次世界大戦中に二代目柳吉さんが富山に疎開し、お店を構えました。現在はりえ子さんの夫である昌勝さんが四代目社長を務めています。
 店舗内にはカフェスペースがあり、ひっきりなしにお客さんが訪れます。「ちょっと近くまで来たから」と気軽に立ち寄り、着物やジュエリー、和装小物などを品定めする姿が見られます。三代にわたってお付き合いのあるお得意様も少なくないそうです。
 「お客様は冠婚葬祭など人生の節目のために着物を作ってくださる。それぞれの思いと深く結びついて、親戚のようなご縁が続いています。私たちは地元に根差し、お客様が困ったときは相談に乗りながら商売をさせていただいています。例えば、『お母様の帯と合わせてみては』『おばあ様の着物を羽織に仕立て直しましょう』などと提案いたします。着物はとってもエコな衣類ですから、仕立て直したり、生地の薄くなった部分を奥に入れ込むなど、工夫して長く着続けることができます」
 創業は洋装が大衆にも普及していった明治時代であり、二代目は戦中、戦後の物のない時期を乗り切って店を守ってきました。三代目を経て四代目の今日まで「若者の着物離れ」が言われて久しいですが、あおきはいつの時代も着物が日本人にとって特別なものであることを対面販売で伝えてきました。


着物でお出かけ会が好評


 現在、61歳のりえ子さんは、三人娘の子育てが落ち着いた10年ほど前から毎日、着物で過ごすようになったそうです。冬は暖かく、夏は涼しい。色の組み合わせを楽しむことができて、季節感も表現できます。
 「着物の魅力を知ることは、女性ならではの楽しみではないでしょうか。着物業界は男性が少なくありません。もちろん、皆さん知識は豊富ですが、着心地まで確かめたうえで販売しておられるわけではありません。素晴らしい逸品でも、富山の風土に合わないものもあるので、ちゃんとお伝えせねばと思っています」
 また、お客様と和装で歌舞伎や食事などを楽しむお出かけ会を主催したり、お客様自身で着付けできるようになるための前結び着方教室を開催したり、お茶会を開くなど着物を日常着としていただけるよう、心を砕いています。
 「素敵な着物を買っていただいたら、誘い合わせてお出かけします。京都や東京、金沢などへ足を延ばし、ランチや観光を楽しんでいると、あっという間に時間が経ちます。着物を通じて人とのつながりが生まれ、その中でいろんな話題を提供していきたいですね」
 お客様の要望にお応えしていくうち、扱う商品が多岐に渡るようになっていきました。例えば、着物を大切に保管してほしいとの思いから新潟県加茂市の小倉タンスを扱っています。成人式に合わせて購入いただくための象牙の印鑑も販売しています。また、店内はジュエリーも充実しており、宝石鑑定士とデザイナーの資格を持つ次女のまやさんが手掛けておられます。


着物作りの現場を支えねば


 常連のお客様とは産地訪問に行くことがあるそうです。全国各地、作家を訪ねて年に5、6回は出張するとりえ子さん。最近では、新進気鋭の着物デザイナー、斉藤上太郎さんに会いに京都を訪ねました。世界的なアーティストであるレディ・ガガさんが日本で買い求めたことでも知られる斉藤さんの着物は、現代風のデザインと和装の魅力が融合されたもの。りえ子さんは大いに刺激を受けてきたようです。
 「作家さんに会うと、着物作りの現場を支えなければ、という使命感が湧いてきます。作業場のにおいや、折り機の音、作家さんの人柄、その土地の風土などに触れることで、着物文化の担い手として、お互いに頑張りましょうという気持ちになります。
 毎年6月、産地を訪問した際に撮影した映像をお客様に紹介しています。着物地がどのように作られているのかを知っていただくためです。そこで聞いたお客様の声を、作家さんにお伝えもします。お客様と作家さんをつなぐ役割を担っていると自負しています」
 作家さんに会いに行くときには、必ずその人の作品を着て行くのがりえ子さんのルール。人間国宝クラスの職人さんとでも気さくに語り合い、交流を深めています。地方の伝統工芸作家は、素晴らしい織物を作っていても、販路が限られているケースも少なくありません。りえ子さんの訪問が販路拡大につながったり、若手作家が発掘されたりすることもあるのです。


テーマは「愛・夢・星」


 あおきの外観はちょっと変わっていて、屋上にある天文台が目印です。社長の昌勝さんは天文愛好家で、超新星を13個も発見しました。社内にはエルデ光器事業部という部署があり、光学製品を販売しています。
 「私のいとこが撮影した月の写真を見た夫は天文学に興味を抱き、天文台まで造ってしまいました。写真に興味を持っているだけあって、その技術を着物の撮影にも生かしています」
 あおきでは10年ほど前から成人式の前撮り撮影会を行っています。プロのカメラマンとスタイリストが店内の専用スタジオにて、新成人とご家族を撮影します。プロの手によって自然な表情を引き出し、1冊のアルバムにまとめ、お客様にお渡しするサービスが好評です。
 また、春と秋にはロケーション撮影が人気で、毎年たくさんの申し込みがあります。
 「一生の思い出をご家族と一緒にちゃんと残していただけるよう、心を込めて着付けをさせていただいています。家族の愛に包まれて成人式を迎えられた娘さんは幸せそうですね。きっと将来は夢をかなえてくれることでしょう」
 あおきのテーマは「愛・夢・星」。愛は家族愛、夢は若者の夢、そして星は天文台にちなんでとのこと。着物を通じて家族が一体感をはぐくんでほしいとの願いが込められています。


需要の拡大が至上命題


 着物が日常着でなくなって久しい今日、需要の拡大は着物業界の至上命題です。りえ子さんもその点はよく理解していて、柔軟なアイデアでお客様のニーズに応えています。例えば、ネット通販で購入した商品を直してほしいというお客様もおられます。そういった依頼を引き受けているのは、「着物が身近になり、着てくださる機会が増えればうれしい」との思いがあるからです。
 「丈が短い着物は帯で隠れる部分に布を足せば着ることができます。遺品の帯締めや帯なども大切にしておいていただければ、中高年になって着てくださることもあるでしょう。古い着物を粗末にはできません。
 若い時は何を着てもいいけれど、齢を重ねて似合うのはやはり、着物ではないでしょうか。ここ一番という場で日本人は、やはり着物を選ぶものです。一昨年12月にノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章さんの奥様、美智子さんも授賞式にうちの着物で出席されました」
 女将は長女の里美さんが継ぐ予定だそうです。すでに若くして着物文化の継承者であり、りえ子さんの着物も次世代へ伝えていってくれることでしょう。「着物に携わるすべての人が元気で頑張ってほしい」とりえ子さん。着物があふれる生活を楽しみながら、着物のすばらしさを発信していく日々が続きます。


きものブティックあおき
富山市月岡町6−1339
TEL:076−429−5588

●主な歴史
明治17年(1884年)初代栄吉が青木呉服店を創業
平成元年(1989年)有限会社青木呉服店に組織変更
平成13年(2001年)株式会社あおきに組織変更
平成15年(2003年)エルデ光器事業部「エルデ光器」創設
平成24年(2012年)前結び着方教室開講
平成26年(2014年)ジュエリー事業部「Dearest」創設