会報「商工とやま」平成29年1月号

年頭所感

構造改革とイノベーションを着実に深化

  日本商工会議所   会頭 三 村 明 夫


 明けましておめでとうございます。
 平成29年の新春を迎え、謹んでお慶び申しあげます。

最大の課題は潜在成長率の引き上げ
 昨年11月の臨時会員総会におきまして、各地商工会議所の皆様のご推挙をいただき、日本商工会議所の会頭に再任され、日商会頭として4回目の新年を迎えました。各地商工会議所におかれましても新体制のもと、新たな年を迎えておられることと存じます。日商としましては、改めて、515商工会議所125万会員の皆様と総力を結集し、商工会議所の使命である、企業の繁栄、地域の再生、日本の成長の同時実現に向けて、全力で取り組んでまいります。
 我が国の最大の課題は、足元で0・2%台まで下がってしまった潜在成長率を引き上げることです。「人手不足」と「生産性向上の停滞」が潜在成長率を押し下げるボトルネックとなっていますので、サプライサイド政策に粘り強く取り組むことが必要です。
 こうした中、商工会議所として重点的に取り組むべき課題は、「中小企業の成長の底上げ」と「地方創生の実現」です。

働き方改革と生産性向上を推進
 中小企業が直面している人手不足に対して、女性や高齢者など多様な人材の活躍を推進していくことが必要です。中小企業は、女性の活躍推進、柔軟な働き方の導入、高齢者の積極的な雇用など「働き方改革」をいち早く実践していますが、こうした取り組みを加速していかなければなりません。
 そして、人手不足を解決するもう一つの方策は、「生産性向上」です。中小企業の生産性は、平均で大企業の二分の一にとどまっていますが、中には大企業の生産性の水準を上回っている中小企業もあり、そうした企業に共通するのは、経営者の成長への意識が高く、ITや設備投資などに積極的であるという点です。ここに生産性向上の鍵があると考えます。人手不足には、その解決を図る過程で、構造改革の中でも最も難しいと言われている「働き方改革」を加速するとともに、若者と女性の活躍する場を拡大し、さらには、IoT、AI、ICT技術導入の大きなインセンティブにもなるポジティブな面もあると言えます。
 中小企業が直面するもう一つの課題は、「後継者の確保」であります。
 商工会議所として、事業承継の支援を積極的に推進するとともに、事業承継の大きなハードルとなっている「事業承継税制の見直し」についても、提言を続けてまいります。

地方創生を支える社会資本整備を要望
 我が国の付加価値額の約半分は、三大都市圏以外の地方で生み出されており、「地方創生の実現」は、潜在成長率の引き上げと持続的な経済成長に不可欠であります。また、東日本大震災や熊本地震の本格復興、福島再生の早期実現なしに日本経済の再生はあり得ません。私は、地方創生の実現に向けて、広域観光振興や農商工連携など、地域の資源や強みを最大限に活用した成長産業を育成し、域外の需要、消費、投資を取り込むことの重要性を繰り返し申しあげてまいりました。さらに、地域で産んだキャッシュは、地域で消費する循環を創出することが重要だと思います。
 観光産業は、担い手の大半が中小企業であるとともに、自動車産業に次ぐ消費規模を持つ一大産業です。現在、全ての商工会議所に観光担当者が設置され、ネットワークを活かした観光商品の開発が進んでいます。未だ見落としている地域の自然や伝統文化などを掘り起こして磨き上げ、ストーリーをつけて売り出し、地域を挙げておもてなしをする持続的な取り組みを、一層加速していくことが必要であると思います。
 また、2020年オリンピック・パラリンピックは、我が国の観光、文化、特産品、技術等を世界的にアピールする絶好の機会です。地方と都市の広域連携により、国全体のバランスのとれた成長に繋げていくため、各地域において、国際交流、ビジネスチャンスの拡大、観光振興等に積極的に取り組んでいただきたいと思います。
 農林水産業も長い年月をかけて育てられた貴重な地域資源です。商工会議所と農林水産業団体との連携によって付加価値の高い商品を開発し、海外も視野に入れ、広く販路を広げていくことが重要です。
 さらに、地方の中小企業には、高い技術力と競争力を持ち、世界マーケットを狙えるものづくり企業が数多くあり、これも地域の重要な財産です。
 こうした地方創生の取り組みを支え、加速するのが、物流・人流の円滑化を促す社会資本整備であります。とりわけ、地方創生にとって効果が大きい整備新幹線、高規格幹線道路、大型クルーズ船に対応した港湾の整備、コンセッションを活用した空港民営化などは、観光客の増加、設備投資の促進、雇用創出などに大きく寄与するものです。民間投資を喚起するストック効果を重視しつつ、商工会議所としても、社会資本整備を強く要望していく必要があると考えております。

これから2〜3年が勝負
 政治的な混乱はあるものの、欧米の経済は堅調と言えます。OPEC・非OPEC諸国の合意により原油の減産が決まり、原油価格も適正な価格に向け上昇し始めています。我が国もまだ大企業の動きではありますが、景況感が好転しつつあります。これは私の仮説ですが、我が国は、2〜3年間の時間的な猶予を得られ、時間と腰を据えた取り組みが必要なサプライサイド政策に大きく舵を切るチャンスを与えられたと言えると思います。
 私達は、短期的な動きに一喜一憂することなく、与えられた猶予の大切さを認識した上で、構造改革とイノベーションを着実に深化させていかなければなりません。成長のトレンドを変えるため、これから2〜3年が、我が国にとって勝負の年となります。
 日本商工会議所としても、515商工会議所、青年部、女性会、海外の商工会議所等との緊密な連携の下、企業、地域、そして、日本経済の持続的な成長の実現に向け、全力を尽くしてまいります。

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