会報「商工とやま」平成29年5月号

平成28年度富山市ヤングカンパニー大賞 大賞受賞企業紹介
 2020年に向けて人と人をつなぐ新たなツールを
  アイデアプラス株式会社


 富山市と富山商工会議所が主催し、創業まもない優れた成長企業を表彰する富山市ヤングカンパニー大賞。平成28年度の大賞に選ばれたアイデアプラス株式会社代表取締役の澤田真由美さんに、同社の体制や扱う商品の特性についてお話を伺いました。


高性能ホワイトボード塗料を販売


 アイデアプラス株式会社は、米国製の高性能ホワイトボード塗料「ideapaint(アイデアペイント)」を扱う日本で唯一の正規代理店です。アイデアペイントで石膏ボード、鉄板、木などの壁面やテーブルを塗装すると、平面が大きなホワイトボードになります。12色の専用マーカーで書いた文字や絵は、ふき取って何度も書き直すことができます。NASA(米航空宇宙局)やGoogle、Appleなどでも導入されており、意見交換や相互理解を促すツールとして活用されています。
 「アイデアペイントを塗った壁は、全体が大きなホワイトボードになるので、等身大の人間など大きなものを描くことができます。また、書いた文字が消しやすいのも特徴です」と澤田さん。白い塗料ならホワイトボードになり、黒などほかの色を塗ることもできます。下地の木目などを活かした塗装も可能です。
 澤田さんは6年ほど前、自宅のリビングに「息子が落書きをしてもいい壁」がほしいと考え、インターネット上でアイデアペイントを見つけて個人輸入しました。優れた商品であると実感したので知人などに勧め、個人輸入の代行などをするうちに、多くのニーズが期待できると予感し、起業したそうです。
 塗料は1缶2万7000円で、専用のローラーを使って約4平方メートルに塗ることができます。下塗りを2、3度行い、仕上げのペイントを1回。日曜大工の感覚で使うこともできますが、乾くのが早く15分程度で固まるので、取扱いには注意が必要です。同社では塗装業者のあっせんもしています。


子育てしながら効率の良い仕事を


 澤田さんは富山市内の高校を卒業後、大阪市内にあるデザインの専門学校に進み、プロダクトデザインを学びました。自転車をデザインする大阪の企業で子ども向けの商品を手掛けた後、23歳で故郷にUターンして求人情報誌の編集者となりました。
 「自転車と雑誌、それぞれのデザインでいろいろなことを学びました。私には、三次元より二次元のデザインの方が向いていたように思います。だから壁に行きついたのかもしれません」と澤田さん。結婚し、出産を契機に出版社を退社し、一度は家庭に入って家事・育児に専念しました。
 その後、「子育てしながらできる仕事は何だろう?」と考え、地域経済活性化のために起業家を育てる「とやま起業未来塾」に入って経営を学んでいたところ、アイデアペイントのことを知りました。澤田さんの口コミによって未来塾の受講者から関心を集め、「代理で輸入してほしい」という声が上がりました。日本にはなじみの薄い商品を見つけても、ユーザーとしての意識しかなければビジネスにはつながりません。しかし、澤田さんは「これは面白い!」とひらめき、2010年に製造元と交渉して代理店契約を結んだのです。発売後、1年目で手ごたえをつかみました。
 澤田さんは子育てをしながら自分のペースで効率よく働くため、配送は運送業者、施工は塗装業者、経理は税理士、製造元とのコミュニケーションは通訳、受注は専門の電話オペレーターと、外部の専門家に委託するなどの工夫をしています。

京都大や慶応大なども導入


 アイデアペイントは、米国の大学生3人のアイデアから生まれたそうです。学生寮の壁に紙を貼ってアイデアを出し合っていたところ、スペースがなくなり「壁に直接書けたらいいのに」と思ったことがきっかけとか。3人は科学者の協力を得てアイデアを実現しました。今ではコピー商品も世界中で出回っていますが、性能・品質・施工性・復旧性(リペイント)・耐久性などの点で「本家」のアイデアペイントが優れています。
 アイデアプラスの納品先としては企業などのほか、京都大や慶応大、明治大など有名大学が名を連ねています。導入した大学では数式がびっしり書かれた壁の前で学生が知恵を絞っている、そんな光景が見られます。黒板を扱うメーカーからも問い合わせを受けました。チョークの粉が落ちないので清掃が楽という利点もあります。
 2012年に会社を設立して以来、売上は堅調な伸びを見せており、富山県内外から問い合わせ・発注が相次いでいます。
 壁を白く塗ってホワイトボードにする、たったそれだけのことですが、施工されたオフィスや学校は雰囲気が一変します。ホワイトボードが要らなくなるので、有効なスペースが広がり、明るい雰囲気に。壁一面では足りず、二面、三面と追加を希望する取引先も少なくありません。

有効な活用方法も伝える


 IT関係の企業からの発注が多く、ユーザーからは次のような声が上がっています。
・社員同士の心理的な障壁が取り除かれ、コミュニケーションが増えました。
・実際に使ってみたら、これを使っている会社が成長している理由がわかりました。
・仕事の効率が格段に向上しました。
・生徒に大人気です。よく使うので、増設します。
・とにかくスタイルがかっこいい。自慢したい。
 アイデアペイントを塗った壁は、ビジネスを発展させるツールと言えるでしょう。孤独にパソコンと向き合っていたスタッフが集まり、アイデアを出し合ってコミュニケーションを深めるきっかけになります。
 「社内の上下関係の堅苦しさが解消された」という声もありました。澤田さんは自社の製品が、見た目の印象だけではなく、人間関係をも変えていくパワーを持っていると何度も実感しています。
 「ある企業の経営者から『こんなに良いものを、他の会社が使わない理由が見つかりません』と言われ、本当にうれしかったです。有効的な活用法もお伝えしていきたいと思います」
 すでに壁と連携したアプリが発売され、壁に書いた文字や絵を撮影してスタッフ同士で共有し、コメントしたり編集したりする方法が提案されています。パワーポイントと併用して壁に映した図表に書き込んでいく使い方も効果的。ユーザーが新たな用途を発案してくれることも少なくありません。

富山から新しい発想を提案


 「需要は企業や学校がほとんど。中でもアクティブ・ラーニングを目的とした施設では積極的に活用されています」
 現在、議論されている新しい学習指導要領でもアクティブ・ラーニングについて検討されています。2016年度から17年度の間に中央教育審議会の答申として発表され、小学校では18年度には移行措置が始まり、20年度には全面実施される予定です。これまで高等教育でのみ語られてきたアクティブ・ラーニングが、初等中等教育の現場にまで下りてくることになります。アイデアペイントは今後、教育現場にどんどん普及していく可能性を秘めています。
 「よく『アイデアの数はスペースに比例する』と言われます。広い面積に文字や絵を描いていくことは、生徒の自発性を促すアクティブ・ラーニングの意図に合っています」
 澤田さんは、頻繁に県外へ出張し、施工の現場や展示会などに出向いています。2016年8月に都内に開設したショールームを兼ねる東京オフィスには、80平方メートルの「体験ウォール」があり、訪れた人は自由に文字などを書くことができます。学習指導要領の改訂、東京五輪など2020年の節目に向けてより多くのユーザーを獲得すべく、戦略を練っています。
 アイデアペイントは、人と人の結びつきを演出する「不思議な壁」を創造します。富山から新しい発想を提案する澤田さんの挑戦から目が離せません。

アイデアプラス株式会社
富山市藤木602‐20
電話  076−456−4331
FAX 076−456−3688