会報「商工とやま」平成29年7月号

シリーズ 老舗企業に学ぶ34
誠実さを第一に、着物を通じて文化を伝承する 有限会社 蔵島屋


 着物の蔵島屋は、初代が明治36年に現在の中教院前に創業して114年。平成7年には中央通りの中央部の角地に新築移転しており、正統派の着物はもちろん、現在では和雑貨も充実したお店として親しまれています。着物姿の四代目、與一郎さんにお話を伺いました。


初代から受け継ぐ「與」


 與一郎さんの名前は創業者(初代)である曾祖父からの襲名です。初代・與一郎さんから四代目の與一郎さんの長男・與士希さんまで名前には「與」という字が入っています。初代・與一郎さんは、商家の生まれでしたが、独立して明治36年に呉服太物商を創業しました。
 「二代目である祖父(與八)と共に、中教院の設立や中教院アーケードの建築などにも携わり、地域の発展に尽力したと聞いています。
 祖父は厳しい人で、正直者でした。直木賞作家の源氏鶏太さんが富山商業高校の同級生だったそうで、ご夫婦で遊びにきてくださった写真が残っています。
 三代目の時には洋品も扱い、その頃は、店の2階で、デザイナーや和装士、洋裁士の女性が20人以上も仕事をしていて華やかでにぎやかでした」
 與一郎さんは、大学を卒業後、岐阜市内の老舗呉服店で4年間修業し、Uターンして店に入りました。平成8年に結婚し、翌年には長女が誕生。さらに、同12年に長男、同15年に次女が生まれ、一家の長となるにつれて、四代目としての責任と覚悟が固まっていきました。
 「幼いころからとても可愛がってくれた祖父に言われ続けてきた『跡継ぎ』という言葉が体に染み付いていたのか分かりませんが、跡を継ぎ、生まれた息子の名前に「與」の字を付けた時、祖父の喜ぶ顔を見て家業を承継してよかったと確信しました。父もそうであったように、商店街、商工会議所青年部、PTA等、地域の活動にも微力ながら勤しんできました。私たちが今こうしていられるのは、地域や先祖、弊社を信頼してくださる皆様のお陰です。何かの形で恩返ししなければといつも思っています」



しきたりや習慣・文化を伝える


 子供が生まれるとお宮参り、その後もお食い初め、七五三、十三参りなど人生の節目には神様、ご先祖様に感謝し、お祝いします。そして成人式や結納、結婚式と続きます。蔵島屋の理念は、着物を通じて習慣や文化、しきたりを伝承することです。
 「冠婚葬祭の様式は、地域によって異なりますが、時代と共に、少しずつ変化し、簡略化しているのは確かです。『こうでなければいけません』という言い方は避けながら、ご相談いただいた方々の考え方に沿った作法や方法をお話しています」



男性用の品ぞろえが充実


 男性の着物の正装は紋付・羽織袴ですが、最近は、結婚式でも新郎や新郎・新婦の親でない限りは着用しません。そこで與一郎さんは親せきや友人の結婚式にはスーツではなく、色紋付・袴の装いで参列します。
 また、與一郎さんは夏場のほとんどを着物で過ごすそうです。麻やポリエステル素材の着物は、汗をかいても自宅で洗うことができ、アイロンかけも不要で通気性が良く涼しいのです。
 蔵島屋では男性用の着物の品ぞろえが充実しており、小物も揃っています。手ごろな着物を男性も普段着として来てほしいというのが與一郎さんの願いです。



十数年前からレンタルも


 十数年前から、蔵島屋ではレンタルを始めました。
 「昔は、着物を販売する店なのに、とレンタルすることに抵抗があり随分悩みましたが、着物のよさをアピールする方法の一つと捉えるようになったのです。まずは着物に触れてもらうこと。『レンタルのみならず、お母様、お祖母様から受け継いだものを再活用する方法やクリーニング、寸法直し、着付け等々、着物のことで困ったら蔵島屋へどうぞお越しください』と申し上げています」



呉服屋の従来イメージを払拭


 「『入りやすく、出やすい店』というのが、平成7年に新築した時のお店作りのコンセプトです。出入り口を2カ所設け、人と風の流れを意識しました。従来の呉服屋に対するイメージを払拭したくて、ガラスやちりめん細工等の和雑貨、浴衣、自宅で洗える着物なども豊富に展示しています」
 雑貨などは、店頭の目につきやすい場所に置き、店内に入りやすいよう工夫されています。
 與一郎さんの奥様である明美さんは、全日本着付け技能センター国家検定一級技能士で着付け教室の講師を務めるかたわら、着物姿でランチをしたりお花見にお出かけしたり、楽しみながら着物に触れ合う機会を演出しています。店舗2階では展示会スペースを設け年回8回も展示会を開催しています。
 「学校で、卒業生を担任する女性の先生はもちろん、男性の先生も紋付、羽織、袴姿が多く見られますが、最近は子供さんの入学式、卒業式に保護者も着物で参列される方が増えています。家庭科の授業でも着物文化の教育を取り入れており、これからまた、着物の良さが見直されていく気がします」



着物は思い出と一緒に


 「節目には着物で家族写真を撮るようにしています。子供たち3人の着物姿の写真は私たち夫婦の宝物です。長女も次女も着物が好きで好みもうるさいのですが、来年成人式を迎える長女は私たち夫婦がアドバイスせずとも私たちが着てほしい柄の振袖を自ら選びました。孫のことになると口やかましい父母も満足そうに喜んでいました。また一枚思い出の写真という宝物が増えそうです」
 インタビュー中に何度も、誠実さが一番と語る與一郎さん。これからも地域に愛されるお店として歴史を守り続けています。



有限会社 蔵島屋
富山市中央通り1丁目5−12
TEL:076−422−3355

●主な歴史
明治36年(1903年)初代の上田與一郎が、中教院前に呉服太物商を創業。
昭和21年(1946年)富山大空襲で店が焼失。二代目の與八が、終戦直後に再建。
昭和30年(1955年)三代目、與之助への事業承継に伴い有限会社となる。
平成7年(1995年)四代目、與一郎への事業承継に伴い、中央通りに新築移転。