会報「商工とやま」平成30年1月号

シリーズ 老舗企業に学ぶ40
女性3代が逆境を乗り越え、甘酒まんじゅうの味を守る 甘酒まんじゅう本舗 竹林堂


 竹林堂の創業は江戸時代の安永年間。甘酒を練り込んだ皮でこしあんを包み、蒸してから焼く「竹林堂の甘酒まんじゅう」は約240年以上前に誕生しました。伝統を守り、次世代へ託す思いを代表の山ア佐和子さんに伺いました。

前田利謙公から称号「竹林堂」

 7代目の佐和子さんは、「嫁に来た身なので、詳細な歴史については分からないことも多い」と言います。6代目だった夫の善雄さんがすでに他界しているので、他家へ嫁いだ義姉からも情報を集めて取材に応じてくださいました。  「創業者の初代・善次郎は射水市水戸田の出身で、富山市中心部に出てきて商いを始めました。小麦粉と甘酒を練った皮であんを包んだまんじゅうは評判を呼び、『富山名物』として親しまれました。
 時の藩主に献上したところ、その特殊な味と甘酒の香りが喜ばれ、藩直々の製菓御用を承りました」
 寛政2(1790)年には、藩主・前田利謙公から「竹林堂」の称号を受けました。その後、当主は『善次郎』を名乗って代を重ね、善雄さんの父・5代目善次郎まで名前を継承して来ました。昭和28年には有限会社となっています。
 代々、家長である男性が竹林堂を継承してきましたが、平成25年、6代目の善雄さんが亡くなったことにより佐和子さんが7代目となって、現在に至っています。

素朴な風味と甘酒の香り

 甘酒まんじゅうは、秘伝の自家製甘酒を使い、伝統の製法で職人が一つずつ丁寧に作っています。全国に清酒を使った「酒まんじゅう」はたくさんありますが、「甘酒まんじゅう」は珍しく、風味が特徴となっています。添加物を使用しておらず、甘酒といってもアルコール分が残っていないことから、子供でも安心して食べることができます。
 「甘酒の原料には富山の米(麹)と水を使っています。仕上がりは気候や湿度に影響されるので、毎日同じように作ることができません。そのため同じものを作り続けるのは難しく、経験を積まねばできません。
 夫の善雄は、甘酒まんじゅう作りに命をかけていました。寒い冬の晩は酒桶に毛布を掛け、暑い夏の晩には周りに水を張って温度を調節し、仕込んだ甘酒のあんばいを確認してから床に就いていました」

妻として店を支える

 善雄さんが甘酒まんじゅう作りに励む一方で、佐和子さんは店頭に立ってお客さんと接し、昭和40年ごろからは、甘酒まんじゅう以外の数種類の和菓子を考案して販売を始めました。
 佐和子さんは、3人の子供を育てながらも、朝早くから夜遅くまで働いてお店を支え、地元中央通りの女性会等の活動にも積極的に参加してきました。

悲しみ乗り越え、家族が成長

 昨年の5月、竹林堂は悲運に見舞われました。8代目となる予定だった娘・ゆかりさんの夫・俊明さんが54歳で急逝したのです。
 「ゆかりと俊明は中学の同級生でした。俊明は婿に入って誠実に技を磨き、2人の子供にも恵まれました。『もう、俊明とゆかりに店が任せられる』と喜んでいた矢先でした」
 店の大黒柱が亡くなっても、老舗の看板と味を守っていかねばなりません。不幸中の幸いだったのは、ゆかりさんが善雄さんと俊明さんから甘酒まんじゅうの製法をきちんと学んでいたことです。俊明さんの不在は精神面でも大きな喪失感を与えていますが、ゆかりさんは気丈に奮闘しています。
 「ゆかりは、俊明がいなくなってから変わりました。本当は辛いと思いますが、周りに悲しい顔を一切見せず、毎日これまで以上に仕事に励んでいます。
 孫娘で長女のあす香も、父親が亡くなってから変わりました。大学を卒業し店を手伝っていましたが、『私がやらなくちゃ』という決意が見えるようになりました。毎日、仏壇に手を合わせ、店に立って母を支えています」
 ゆかりさんとあす香さんにも少しお話を伺いました。
 今後のお店についてゆかりさんは、「この店を守っていくことが私の使命だと思っています。今後は、亡き夫の思いとともに娘の若い考え方も取り入れ、より多くの皆様に愛されるお店にしていきたいです」。また、あす香さんは、「父の死により、『母を助けなければ』と思うようになりました。お手伝い程度では済まないと思い、気持ちを切り替えました。どんな風にすればこの伝統の味をより多くの人にお伝えできるか模索中です」と話してくださいました。若い力が竹林堂を支えています。

インターネット販売を開始

 俊明さんが亡くなってから、佐和子さんの意識も少しずつ変わりました。甘酒まんじゅうについては「安易に販路を広げない。昔の味をひっそりと伝える」という思いを持ち続けていましたが、新たな戦略として、昨年7月にホームページ上で注文できるインターネット販売を始めました。
 「富山を離れた人には『懐かしい味をもう一度』と思う方もいらっしゃるのです。遠方の皆さんにも味わっていただきたいと思うようになりました」

スーパーマーケットでも販売

 「朔日まんじゅう」の時は、朝から店頭に長蛇の列ができるほどの来客がありますが、日常の客足が遠のいている現実があります。
 そこで、昨年の10月から、お客様が立ち寄りやすいスーパーマーケットでの販売を始めたところ、好評だそうです。
 「スーパーマーケットでの販売はとても悩みましたが、歩み出す時期だと思ったのです。  竹は強くしなり、林を形成して地中に根を張り巡らせます。伝統の味を広めることも大切。柔軟に、老舗の名に恥じぬ商売の仕方を考えていかねばなりません」
 俊明さんの死に直面し、山ア家の女性3代が新たな挑戦を始めました。笑顔を絶やさず、甘酒まんじゅうや和菓子作りに邁進し、誠意をもって届ける姿にエールを送りたいと思います。




甘酒まんじゅう本舗 竹林堂
富山市中央通り1丁目5−2(中央通りアーケード内)
TEL076−423−8424
●主な歴史
安永期(1772〜81年) 初代善次郎さんが富山市中心部で甘酒まんじゅうの製造を始める。
寛政2年(1790年) 越中富山藩第8代藩主前田利謙公から「竹林堂」の称号を受ける。以降、2〜5代目当主とも「善次郎」を名乗り、事業を継承。
平成4年(1992年) 5代目の死去に伴い、善雄さんが6代目代表に就任。
平成25年(2013年) 善雄さんの死去に伴い、妻・佐和子さんが7代目代表に就任。