会報「商工とやま」平成30年5月号

特集
平成29年度富山市ヤングカンパニー大賞 大賞受賞企業紹介
シェアハウスは人との接し方を楽しく学ぶことができる場
合同会社シェアライフ富山


 富山市と富山商工会議所が主催し、創業から10年以内の優れた成長企業を表彰する富山市ヤングカンパニー大賞。平成29年度の大賞に選ばれた合同会社シェアライフ富山代表の姫野泰尚さんに、ビジネスを始めたきっかけや将来の展望についてお話を伺いました。


助け合いが生まれている


 シェアライフ富山は、一戸建ての空き家を活用した10軒のシェアハウスとゲストハウスを運営する合同会社です。同社のシェアハウスの居住者は、20代、30代が中心です。家賃が安い上、若者にとっては到底借りられない広い家に住むことができるので、お得感があります。しかし、注目すべきは家賃の安さだけではありません。そこには人と人がつながり、1人で住んでいても孤独ではない暮らしがあり、助け合いが生まれています。

 「自治会が機能していた昭和のころは、何かあれば地域の住民が助け合っていました。支え合うということが当たり前だったのです。シェアハウスの生活も似ています。居住者が生活の秩序を守り、適度な距離感を保ちながら、お互いを尊重し合って、それぞれが居場所を見つけていく場です」

 シェアハウスの家賃は1カ月あたり3万円程度。トレーニングマシンが置いてあったり、シアタールームがあったり、屋上でバーベキューができたりと、それぞれの物件に特徴があり、集まった人によってもハウスの個性が生まれています。

 姫野さんは、入居を希望する人と丁寧に面談し、暮らしについての希望を聞いています。入居後もコミュニケーションを取りながら、居住者同士がうまく関係を築けるよう気を配っています。


何となく不動産業界へ


 姫野さんは、「シェアハウス経営に挑戦するぞ」と決めて行動を起こしたわけではありません。これまでを振り返り、「シェアハウスは『いつの間にか起業』でした」と話します。現在までの歩みは、とてもユニークです。

 富山市出身で、京都の大学へ進学しました。卒業後に一般企業へ就職しましたが、単身赴任を続ける先輩社員の姿に「長い間、家族と離れて暮らす生活はしたくない」と1年で退社を決めました。子供のころ、週末にいろんな所へ連れて行ってくれた父親の生き方に共感もしていました。

 富山に帰ってきて1年間はフリーターとして過ごし、その後2年間は、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアに渡り、ハリウッド映画の大作にエキストラとして出演したこともあります。出演した際に出会った仲間たちの様々な生き方に影響を受け、メルボルンで「アサイー」というブラジル原産のフルーツを輸入販売する事業を興したこともありました。

 オーストラリアから帰国して20代の間は、大学卒業後から続けていたブラジリアン柔術やキックボクシングに打ち込み、プロのリングにも上がりましたが、連敗や怪我、手術などの挫折も味わいました。

 一方、仕事面では特にやりたいことが思い浮かびませんでした。たまたま不動産投資の本を読んだことから、県内数カ所のショッピングセンターなどに事業所を置く、賃貸物件を扱う不動産会社に就職。

 「社長は『経営者の近くで仕事をしたい』という私の志望動機を聞いて採用してくださいました。そのおかげで社長からたくさんのことを学びましたし、いろんなサービスや商品を扱っていく姿勢と、本業である不動産以外の新しいビジネスにどんどん参画していく貪欲さに刺激を受けました。

 今思えば安易な気持ちでの入社でしたが、出会いに恵まれました」


自身の暮らしがきっかけ


 姫野さんは、平成21年1月に入社してから、たった2カ月で中部エリアナンバーワンの営業成績を残し、入社3年目には、4店舗を統括する部長になりました。順調に仕事をこなす中、「いつの間にか起業」につながる転機がやってきます。一人暮らしをしようかと考えている時期に、5LDKの一戸建てを「何とかしてほしい」という家主と出会いました。姫野さんは、自らがこの豪華な家に住みたいと考え、シェアメイトを探し、3人で共同生活を始めることにしたのです。これが起業のきっかけになりました。

 「平成26年に社内起業し、シェアハウスを始めたところ、多くの問い合わせがありました。2年後には、2軒目のシェアハウスを作り、4人が入居。その後も毎年のように増やしていきました」

 シェアハウス事業が本格化したことによって、同27年に6年勤めた会社を辞めて専念することにしました。


ゲストハウスもオープン


 「いつの間にか起業」から「いつの間にか拡大」へ。姫野さんのシェアハウス事業は、顧客のニーズに応えることが新しいビジネスへの参画につながっていく結果となりました。それがゲストハウスの新設でした。

 「居住者の1人が富山駅前で弾き語りをしている若者を連れてきたことがありました。シェアハウスに住む人は、自由に旅をして回るような人に魅力を感じ、つながっていくのだと思います。

 居住者がゲストと利用できるだけでなく、居住者の人の縁を県外や海外にも広げるべく、平成27年にゲストハウスを始めました」

 その名も「縁(えにし)」。富山駅から徒歩15分の距離にある一戸建てを活用した施設となっており、1泊3000円程度で利用できます。オープンが北陸新幹線の開業時期と重なったこともあり、観光客からも好評です。シェアライフ富山のシェアハウス居住者であれば、無料で利用できます。


シェアハウスの社会的意義の可能性


 姫野さんは、UIJターンの支援にビジネスの可能性を見出しています。

 宅地建物取引業の免許を持つ同社のシェアハウスには、定職や保証人がなくても定期借家契約を結ぶことで2、3カ月滞在することができます。

 「この間に富山で就職先を探し、富山県内に定住する道筋をつける手伝いができるのではないかと考えています。だから、UIJターンの政策を考えている行政の方などに、もっとシェアハウスのことを知っていただきたいですね。

 また、企業研修のための住まいにもおすすめです。なぜならシェアハウスは、居住者が適度な関係を保ちながら支え合って暮らすことによって、人との接し方を無理なく学ぶ場になるからです。

 実際にシェアハウスで暮らした大学生は、年長の居住者と接することで多くのことを学んで卒業していきました。共同生活は、社会人になる前のトレーニングや新人研修の役割も果たすはずです」

 自身の暮らしからスタートしたシェアハウス事業でしたが、いろいろなニーズをくみ取っていくうちに、姫野さんは、地域貢献や地域活性化につながる役割も意識するようになりました。

 「シェアハウスは空き家の活用だけでなく、少子高齢社会などの問題解決策として可能性を秘めていると思います。

 これまで、シェアハウスの居住対象は、原則として20代、30代の独身者としていましたが、シニアの男性やシングルマザーなどからの問い合わせも少なくありません。『一人暮らしは寂しい』という感覚は全世代共通です。介護や福祉の専門家と連携し、もっと多様な人を受け入れていく必要があるのではないかと思い始めています」

 時代のニーズに応え、ビジネス拡大につなげてきた姫野さん。シェアハウスには、より幅広い役割が求められていくことでしょう。


合同会社シェアライフ富山
富山市奥井町10-24
TEL:076-461-4894
URL:http://www.sharelife-toyama.com/


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