会報「商工とやま」平成30年7月号

特集
豊富な経験を生かして「社会の担い手」となる高齢者を支援
     とやまシニア専門人材バンク生涯現役促進地域連携事業


 少子高齢化が進む日本では、労働人口の減少による人手不足が大きな課題です。高齢者には「健康で長生き」すると共に、「生涯現役」で働くことが期待される社会となりました。定年退職後「しばらくのんびりしていたけれど、やっぱり働きたい」と思っても、40年ぶりの「就活」には戸惑うことも多いでしょう。そんなときに強い味方となるのが「とやまシニア専門人材バンク」や「生涯現役促進地域連携事業」です。資格や経験を有する高齢者とそうした人材を求める企業とのマッチングをサポートします。同バンクや「生涯現役促進地域連携事業」の役割・仕組みについて、富山県商工労働部労働政策課長の村中秀行さんに伺いました。


高齢者を「社会の担い手」として


 男女の平均寿命はいずれも80歳を超え、「人生100年」と言われる時代です。働く意欲のある元気な高齢者には、長年培ってきた豊富な知識や技術、経験を活かし、「社会の担い手」として働くことが期待されています。

 そこで富山県では平成24年10月に、県・富山労働局・ハローワーク富山が一体となって「とやまシニア専門人材バンク」を開設し、富山市湊入船町のとやま自遊館2階に窓口を設け、55歳以上の方を対象にした就労支援をスタートしました。村中さんは同バンクの役割について次のように語ります。

 「求職者と企業を結び、それぞれに必要なサービスを提供する仕組みです。対象は55歳以上の方で、上限はありません。富山労働局においても「生涯現役窓口」として県内では富山市や高岡市などに高齢者向けの窓口を設けています。しかし、県・労働局等が連携して高齢者層のマッチングを行う取り組みを行っているのは全国的にも珍しいでしょう」

 富山県がいち早くこのような支援をスタートしたのは、県内の高齢者人口が全国平均を上回っていたからです。有効求人倍率も全国的に比して高く、県内の事業所は人手不足の状況にあり、 同バンク発足時と平成29年度末の数字を比較すると、登録者数は263人から640人と、就職件数は77件から552件と過去最高になっています。また、同バンクに寄せられる求人数もまた27件から636件に増加しており、年々、企業のニーズに応えて実績を伸ばしていることがわかります。(表1)


とやまシニア専門人材バンクとは


 とやまシニア専門人材バンクにとって、定年を迎えた人たちの新たな働き口を探すことはもちろん、早期退職した人たちがセカンドキャリアを探すためのいろいろな情報を提供したり、相談に応じたりすることも重要な役割です。

 同バンクには所長も含めて7人の職員がいます。窓口を訪れた求職者に対して相談業務を行う一方で、県内の事業所を回って求人の新規開拓も行います。

 現在、県内の事業所等で行われている高齢者の労働力を活用するための取組みとしては、@定年をなくす、A定年を60歳から65歳に引き上げる、B定年を60歳としながらも、65歳まで再雇用する、などがあります。多くの企業は定年を迎えた社員を再雇用することで労働力を確保していますが、社外で経験を積んだ高齢者を新たに受け入れることは、新卒の社員を雇用することとはまた違った人材を得る利点があります。

 高齢者の求人は増加してきており、同時に多様化する傾向にもあると村中さんは言います。

 「以前でしたら、清掃やビルメンテナンス、スーパーなどでの接客といった職種が多かったのですが、最近はさまざまな職種の求人が集まってきています。経験豊富な即戦力になる働き手として求めているのです。特に、人手不足が深刻なサービス業や介護職などの求人が多いです」

 同バンクでは基本としてフルタイムで働ける人を募集・登録していますが、実際には企業と求職者との話し合いにより、正社員・契約社員・派遣社員・パートなどさまざまな雇用形態で活躍しておられます。


登録方法は?


 実際、このとやまシニア専門人材バンクにどうやって登録すればいいのか、どのようなサービスを受けられるのか、紹介します。登録自体はインターネット上(アドレスは上記図参照)からできます。その際に必要な情報は、まず履歴書に記載するような学歴や職歴、資格など。そして、これまでどのような職種で実績を積んできたか、またどのような専門的知識や技能を持っているかなどを、200字程度で入力します。自己PR・アピールポイントを入力する項目もあります。この登録をすることによって、同バンクに求人登録している企業の情報を得ることができ、またその企業にも求職者の情報が提供されます。

 どんな内容を入力すればいいのか、どのような自己PRをすればいいのかわからない……といった場合、「自遊館2階にある窓口を訪れ、ぜひ経験豊かな相談員に相談してください」と村中さんは言います。

 「もし『どんな資格を挙げればいいのかわからない』とか、『これまで携わっていた職種とは違う分野で働きたい』、『これを機に資格を取得したい』などの希望があれば喜んで相談に応じさせていただきます」

 求職者の方がそうであるように求人企業もまたさまざまです。勤務時間やスケジュール、勤務地などの雇用条件については企業と求職者の双方にいろいろな希望があります。双方の意思疎通を調整するのも、同バンクの重要な役割の一つです。


生涯現役地域連携事業とは


 「高齢者の方からは『これまでずっと働いてきたのでのんびりしたい』とか『健康上の不安がある』などといった声もあり、働くことを望まない方も少なくありません。しかし、少子高齢化が進み人材不足が深刻である現在、長年にわたって培ってきた経験や知識を活かしてほしいという事業主は多いんです」

 平成29年度からは、「健康で意欲と能力があるかぎり年齢にかかわりなく働き続けることができる」生涯現役社会の実現に向け、高齢者の就労支援を目的とする「生涯現役促進地域連携事業(富山県生涯現役促進地域連携事業推進協議会(事務局:(一財)富山勤労総合福祉センター)」が厚生労働省の採択を受けてスタートしています。

 同協議会では、自治会や老人クラブ、企業などに働きかけ、新規求職者の掘り起こしや企業における高齢者が担える業務の切り出し(ワークシェア)を提案する求職者開拓、企業訪問を行い、高齢者人材の就労を支援しています。

 特に、人手不足が顕著である製造業、宿泊業・飲食サービス、医療・福祉、卸売業・小売業などに重点を置き、次のような活動を行っています。

●遠隔地など就労支援サービスを利用しにくい地域団体に出向き、出前講座などを行う「求職者開拓」の実施
●企業等を訪問し、高齢者雇用を図るための業務の洗い出しや 仕事の切り出しを行う「仕事開拓」の実施
●高齢者や企業担当者を対象に高齢者の活用事例の紹介等を行う「気づきセミナー」の開催(7月下旬〜8月上旬)
●退職前の現役世代を対象にセカンドキャリアやライフプランなどを紹介する「ライフプランセミナー」の開催(6月30日、7月21日、8月25日、9月1日)
●活躍中の高齢者(先輩求職者)と就労に関心のある高齢者との交流会「シニアティーパーティー」の開催(12月〜1月)
●未経験分野の職場理解のための見学会や体験会を行う「シニアインターンシップ」の開催(7月〜10月)
●高齢者の採用に積極的な企業を集めた高齢者限定の「合同企業説明会」の開催(10月上旬)

 「生涯現役促進地域連携事業のイベントや出前講座で生涯現役社会に興味を持たれた方を地域で見つけ、シニア専門人材バンク等でのマッチング支援につなげたい」と村中さんは言っています。


シルバー人材センターとは?


 ところで、高齢者が働くという趣旨から見ると、他にもシルバー人材センターという組織があります。

 シルバー人材センターは市町村ごとに窓口があり、県全体では富山県シルバー人材センター連合会が富山市奥田新町にあります。同センターは高齢者が有料で登録する仕組みとなっており、庭木の手入れや家事の支援など、比較的軽微な業務について、依頼者とのマッチングを行っています。そのため、短時間の簡単な業務を希望される方はシルバー人材センターへ、雇用関係を成立させた上で、自分のこれまで培ってきたスキルを活かしたい方はとやまシニア専門人材バンクへの登録がお勧めです。

 「いずれも厚生労働省が目指す『生涯現役社会』を目的とした組織です。高齢者の皆さんがそれぞれの希望に応じた条件でいきいきと働いてくださることを願っています」

 セカンドキャリアライフをどのように過ごしたいかによって支援を受ける窓口は異なりますが、同バンクや同協議会にご相談ください。


高齢者の就業率、平成27年度は47・2%


 企業にとって、高齢者を雇用することには単に人手不足を補うだけではなく、これまで培ってきた経験や知識、スキルを伝承し、若い社員を育成してもらうメリットもあります。また、セカンドキャリアを考える人が有益な情報を得ることができます。

 同バンクでマッチングが成立した登録者に感想を聞いてみると、介護職に就いたある女性(60歳)は、「義母が要介護に近づきつつあったので、働きながら介護についての知識を身につけたい」という思いがあったので、積極的に情報収集を行い、その結果希望する職場に行くことができたそうです。その女性を受け入れた企業の採用担当者は、「やる気がある方だったので採用しました」と喜んでおられます。また、求職者にとってはインターネットで求人を確認できる便利さが好評を得ています。

 富山県の65歳から69歳までの高齢者の就業率は、平成22年が40・5%で全国12位でした。平成27年度は47・2%と向上しています。これは同バンクの取り組みが成果を上げていることも一因と考えられます。村中さんは、より多くの高齢者の方の同バンクへの登録や生涯現役促進地域連携事業のイベントへの参加を期待しています。

 「ご自身でなくとも身のまわりの方、例えばご自身のご両親などで、『もう一度働いてみようかな』という希望を持っている方はおられないでしょうか。そういった方に対し、ぜひ、これらの就労支援機関のことを教えてあげてほしいと思います」

 人生100年時代です。まだ若い人でも、55歳以降の学び直しや、自分の働き方を見つめ直し、社会や企業とどう関わっていくか今から考えていくべきなのかもしれません。


とやまシニア専門人材バンク
 富山市湊入船町9-1
 とやま自遊館2階
 TEL:076-444-4289
 http://senior-bank.pref.toyama.lg.jp/
富山県生涯現役促進地域連携事業推進協議会事務局
 富山市湊入船町9-1
 とやま自遊館2階
 TEL:076-431-4776


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