会報「商工とやま」平成30年11月号

特集1
働き方が変わります!
第1回「働き方改革関連法」が来年4月1日から順次施行


 本年6月に「働き方改革関連法」が成立しました。平成31年4月1日から順次施行されますので、事業主の皆さまには、改正の内容をご理解いただき、社内制度の整備などに取り組んでいただく必要があります。そこで、2回にわたり、この「働き方改革関連法」の内容やポイントについて、専門家より解説していだきます。


働き方改革について


 働き方改革関連法が、平成30年6月29日成立しました。各法律の施行期日は、表1のとおりです。

 時間外労働の上限規制や不合理な待遇差の禁止など、会社の勤務体制を変えなければ対応できない場合には、今からでも検討を始めなければ間に合わない事態に直面することになると思われます。もし対応が遅れた場合には、労働者が敏感に反応し、人材の流出や求人活動に支障が出ることや訴訟リスクが高まることが予想されます。逆に長時間労働抑制の取り組みが生産性の向上につながり、不合理な待遇の改善が社員のやる気向上につながるチャンスになるとも考えられます。

 今回は、平成31年4月1日が施行期日の法律からみていきましょう。


年5日の年次有給休暇取得の義務化


 年次有給休暇(以下「年休」という)は、入社してから6カ月経過後、その後は1年毎に、所定労働日数の8割以上出勤した労働者に継続勤務期間に応じて一定日数を付与するものです。注意すべきは、現行でも管理監督者やパートタイマーにも年休は付与しなければなりません。特にパートタイマーは、所定労働日数に応じて表2のとおり日数が比例付与になります。時効は2年なので、前年の分で取得してない日数は合算して付与されていることになります。

 現在は、労働者から申し出がなければ年休を付与する必要はありませんが、改正後は、年休を合算して10日以上付与されている労働者(管理監督者やパートタイマーも含む)に対して、1年以内に5日に達するまで自主的に取得するか、労使協定により計画的付与する分を差し引いて、不足分を労働者の希望を踏まえて与えなければなりません。従って、自主的に5日以上取得した場合や、労使協定により5日以上計画的付与した場合は義務の対象から外れます。

 1年以内とは、平成31年4月1日以降に新しく年休が付与される基準日から1年以内ということなので、例えば平成30年4月1日に年休が新たに付与され、所定労働日数の8割以上出勤した労働者は、平成31年4月1日からさっそく1年以内≠フ対象となります。各労働者の年休の取得状況を把握するためにも、年休の管理簿を作成する必要があり、3年間保管しなければなりません。その管理簿を利用して取得状況を確認し、6カ月後くらいに不足分があれば順次業務に支障がないように取得させていくという流れになるでしょうか。各労働者で基準日がバラバラで管理しにくい場合は、付与日を統一する方法が考えられますが、法律を下回らないように付与日や付与日数を決めなければならないなど注意すべき点があります。

 年休の義務化の規定に違反した場合は、30万円以下の罰金が科されます。現在、半日有休や時間単位付与が5日に含まれるのかどうかは、はっきりとしておりません。施行後は、年休取得が義務になったわけですから、労働者側からの年休取得の申し出のハードルも下がり、今までよりも年休取得率も上がってくることが予想されます。


時間外労働の上限規制


 長時間労働是正のための時間外労働の上限規制が、大企業は平成31年4月1日から、中小企業は1年後の平成32年4月1日から適用になります。

 時間外労働の上限は、現在でも法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を臨時的な特別の事情のため超える場合に、月45時間・年間360時間(1年単位の変形労働時間制を採用している場合は月42時間・年間320時間)となっており、労使で36(さぶろく)協定を締結し、所轄労働基準監督署へ届出なければ休日労働を含めて時間外労働をさせてはいけないことになっています。さらに現行法では、一時的または突発的な事情がある場合に限り、特別条項を締結することで年間に6カ月まで上限を超えて時間外労働を延長することができ、その法律上の上限はない状態です。ただし、安全配慮義務が企業にはありますので、過重労働にならないように配慮した一定の限度は必然的にあります。

 これが今回の改正では、月45時間・年間360時間(休日労働含まず1年単位の変形労働時間制を採用している場合は月42時間・年間320時間)の上限は変わらず、これを超える場合に、月100時間未満、複数月平均80時間以内(ともに休日労働含む)、年間720時間以内(休日労働含まず)で超えることができるのは年間に6カ月までとなります。

 違反した場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。各月の上限が100時間未満となっていても、これからは法定休日も含めるので複数月平均で80時間を超えていないか常に確認を怠らないことが重要です。36協定の様式も変更になります。

 なお、自動車運転の業務、建設事業、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業は、改正法施行後5年後に上限規制が適用され、新技術・新商品等の研究開発業務は、医師の面接指導、代替休暇の付与等の健康確保措置を設けた上で上限規制の適用が除外されます。自動車運転の業務は、適用後の年間上限は960時間となります。

 関連して裁量労働制が適用される労働者や管理監督者も含めてすべての労働者の労働時間を客観的な方法その他適切な方法で把握することが義務づけられます。長時間働いた労働者に対しては、一定時間を超え、申出があった場合は、医師による面接指導を実施する義務が現行でも企業にはあります。また、長時間労働是正のため、取引環境の改善も重要ということで、事業主の責務として短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないように配慮するように努めることが規定され、今年度中に表3のように労働基準監督署と公正取引委員会・経済産業省の通報制度が強化される予定です。


高度プロフェッショナル制度の創設


 改正前からマスコミ等の話題となっていた高度プロフェッショナル制度が新たに創設されました。中小企業にとっては、今のところほとんど利用することはないものと思われます。

 まずこの制度の対象業務は、高度の専門的知識等を必要とし、従事した時間と成果との関連性が高くないとされる業務に従事する者で、具体的には金融商品の開発業務やディーリング業務、アナリスト業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタント業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)、研究開発業務等と例示されています。それ以外に年収が1075万円以上で、職務を明確に定める書面で合意している労働者(撤回も可能)が対象者となります。

 加えて制度の導入には、事業場の労使同数の委員会(労使委員会)で対象業務、対象労働者及び健康確保措置などを5分の4以上の多数(労働者側委員の過半数の賛成が必要)で決議することが求められ、年間104日以上かつ4週4日以上の休日を確保することが義務付けられます。健康確保措置は、

(1)インターバル規制(終業時刻と次の日の始業時刻の間に一定期間を確保)+1カ月当たりの深夜業の回数制限
(2)在社時間等の上限設定(1カ月または3カ月当たり)
(3)1年につき2週間連続の休暇取得(労働者が希望すれば1週間連続を2回)
(4)臨時の健康診断の実施(在社時間等が一定時間を超えた場合または本人の申出があった場合)

のうちのいずれかを導入しなければなりません。さらに在社時間や社外で労働した時間が1カ月あたり一定時間を超えた場合は、医師による面接指導を実施することが義務付けられ、罰則もあります。面接指導の結果によっては、職務内容の変更や特別休暇の付与等の事後措置を講じる必要もあります。これらによって、時間外労働の上限規制や時間外・休日・深夜割増賃金の支払義務が適用除外になります。


●著者紹介
・岩峅  勲氏(特定社会保険労務士)
・大花 哲仁氏(特定社会保険労務士)
※お問い合わせはこちらまで
 前田労務管理事務所
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 TEL:076-441-7411


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