会報「商工とやま」平成31年4月号

特集

コンパクトシティ政策などで17の目標達成へ

SDGs未来都市とやまを考える


 「SDGs」という言葉をご存じでしょうか? 「エス・ディー・ジーズ」と読みます。「Sustainable DevelopmentGoals(持続可能な開発目標)」の略称です。国連が掲げる、2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標を指します。これを受けて日本政府は「自治体SDGs推進関係省庁タスクフォース」を設置し、目標の達成 を推進するための「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」を担う選定都市を決め、富山市もその一つに選ばれました。SDGsはどんな内容なのか? 同市の取り組みと合わせて、環境政策課の東福光晴さんに伺いました。


SDGsを掲げた大阪万博


 SDGsは2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」 で193の全ての国連加盟国が合意した、2030年までに達成すべき課題 と、その具体的な目標です。その狙いは、未来に向かってより良い世界を実 現するためのビジョンを、国連加盟国で共有することです。SDGsについ て東福さんは次のように話します。

 「グローバル化が急速に進む社会・経済・環境面で生じるさまざまな課題 を統合的に捉え、世界各国の市民や企業、行政が協働・連携して取り組んでいくためのキーワードです」

 例えば、2025年に開催が決まった大阪万博は、SDGsが達成された 社会を目指すために開催することをアピールして誘致に成功し、「地球規模 のさまざまな課題に取り組むために、世界各地から英知を集める場」として準備を進めています。

 SDGsは「世界中の誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」を理念として掲げ、17の分野にわたっ て、「目標」を制定しています。内容は、(1)貧困、(2)飢餓、(3)保健、(4)教育、(5) ジェンダー、(6)水・衛生、(7)エネルギー、(8)成長・雇用、(9)イノベーション、(10)不 平等、(11)都市、(12)生産・消費、(13)気候変動、(14)海洋資源、(15)陸上資源、(16)平和、 (17)パートナーシップ(下表参照)です。


市民、企業、行政それぞれが目標意識を


17の分野をそれぞれ細分化した具体的な「達成目標」は169あり、さらに目標の達成に向けた進捗状況を測る ための232の「インディケータ(指標)」が設けられています。三層構造 で目標を掲げ、2030年までの達成を目指すのです。東福さんは、SDG sの内容が制定されるまでの国際社会における取り組みについて、こう話します。

 「SDGsは何もないところから出発したのではなく、以前からあっ た、世界の現状を改善しようとする取り組みの上に制定されたものです。 2000年に発展途上国を対象とした『MDGs(ミレニアム開発目標)』が定められ、12年には 「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開催され、MDGsの後継として、SDGsを2015 年以降の国連の開発アジェンダを統合する形で制定することが確認されまし た。そしてその流れの中で、政府以外の市民や企業がオープンな形で議論す る『オープン・ワーキング・グループ』という枠組みを経て、発展途上国だけに留まらず先進国も含めた、より幅広い17 の目標が設定されたのです」

17分野の一つである(13)気候変動を例に、SDGsの意義を考えてみましょ う。現在、地球温暖化が起こり、海氷や氷河が減少したり海面が上昇したり しています。これら自然環境の変化は地球規模で起きているものであり、い くつかの国が努力したところで食い止められるものではありません。

 そこで国連は「より良い世界を実現するためのビジョン」を世界各国の一 般市民にまで浸透するよう、SDGsを掲げたのです。東福さんは、SDG sを通じて国連と富山市民が繋がっていくイメージを抱いています。

 「SDGs達成のためには、市民や企業、行政それぞれがSDGsの目標を『自分ごと』として捉えることが重 要です。17の目標すべてを一度に取り組む必要はありません。例えば冷暖房 の利用を控えたり((7)エネルギー)、車 と公共交通をバランスよく利用する((11)都市)など、一人ひとりができることから始めることで、結果的に他の目 標達成にもつながっていくのです」


富山市が未来都市・モデル事業に採択


 日本政府はSDGsを地方にも広めようと、優れた取り組みを提案する 自治体をモデルとして選定しました。2017年6月、「SDGs未来都市」に全国から 29の都市が選定され、その中で先導的な取り組みを行う「自治体SDGsモデル事業」に10 事業が選ばれました。

 富山市は「SDGs未来都市」に選定されるとともに、 「コンパクトシティ戦略による持続可能な付加価値創造都 市の実現」というテーマで「自治体SDGsモデル事業」に も選ばれました。以前から力を入れてきた環境政策やコン パクトシティ政策など、まちづくりの取り組みが評価されたのです。

 コンパクトシティ政策の要点を改めて整理すると、次のようになります。

 「富山市では、人口減少社会において、LRTネットワークをはじめとす る公共交通を活性化させ、公共交通沿線周辺に住む人の割合を高めることで、 自動車利用への過度な依存を抑えようとしています。その上で、中山間地域 など交通が必ずしも便利でない地域では、森林や小水力といった富山の豊富 な自然資源を再生可能エネルギーとして地産地消しながら、電気自動車(E V)や燃料電池車(FCV)を地域公共交通として活用していく可能性を検 討しています。また、市内企業の技術・ノウハウをパッケージとして海外輸 出することで、海外の課題解決に貢献したり、市内企業のビジネスチャンス を創出するための国際展開事業にも力を入れたりしています」

 この取り組みを継続的に発信してきたことが国内外から「環境先進都市」 として評価され、今回のSDGs未来都市・モデル事業の採択につながった のです。


「えごま」で目標達成も


 富山市の実態に合わせて、SDGsをどう捉え直していくかを考えてみましょう。

 「(7)エネルギーについてでは、太陽光など省エネ設備に対する設置補助な ど、以前から本市が実施してきた施策は多くあります。このように、すでに 実施している取り組みをSDGsの視点から捉え直すと、17 の分野に関連して、すでに『達成に近づいている目標』もあるでしょう」

 例えば、環境未来都市に選定された後、2012年度にスタートした「え ごま」の特産品化プロジェクトは、14年度に植物工場が稼働したほか、耕作 放棄地を活用した露地栽培を展開しながら、えごまの安定生産を目指し、地 方創生の観点からブランディングを図ることで、生産から流通販売までを一 気通貫して行う「6次産業化」を推進しています。

 これをSDGsの視点から捉えると、えごま6次産業化の取り組みは、 (3)保健、(7)エネルギー、(9)イノベーション、(11)都市、(17)パートナーシップの 5分野での目標につながっています。具体的には、(3)保健では健康効果の高いえごま関連商品の普及、(7)エネルギ ーでは太陽光や温泉水等のクリーンエネルギーの活用、(9)イノベーションではIoTやAIなどのスマート農業技 術を活用した大規模生産体制の確立、(11)都市では耕作放棄地の解消による中 山間地域の再生、(17)パートナーシップではえごま6次産業化推進グループの 設立と関係者間の連携強化、などです。

 「SDGsの目標を自分たちの既存の取り組みに当てはめて、やったつも りになるのではなく、将来望ましい社会や必要とされる価値は何かを明確に イメージして、そこからバックキャストを行い、具体的な行動につなげてい くことが大切です。そのためには、一人ひとりの意識改革が求められます」  SDGsを遠い目標として捉えるのではなく、自分に身近なこととして考 えるためには、達成状況をリアルに把握するための「見える化」が欠かせま せん。その中で、未達成の目標については皆で連携・協働していくための仕 組みづくりが求められます。「地球環境の限界」が叫ばれる今日、国連が 掲げるSDGsの目標に対して、日本に住む富山市民としても全くの無関 心ではいられません。市民や企業が2030年に向けた具体的なアクショ ンを起こす必要があります。

 2018年までのSDGsの達成度を見ると、日本は15 位です。ちなみに1 位スウェーデン、2位デンマーク、3位フィンランド、そして4位ドイツ、5位 フランスと続きます。日本のSDGs達成状況については、とりわけ(5)ジェ ンダー、(12)生産・消費、(13)気候変動、(14)海洋資源、(15)陸上資源、(17)パートナーシ ップの6分野での評価が低い状況です。

 「日本において達成度が低い分野でも、富山市はいくつかの施策を行って います。例えば(5)ジェンダーなら地域包括ケアシステムの整備や保育所の待 機児童ゼロに向けた取組みが挙げられますが、同時に(3)保健や(17)パートナー シップなど他の目標の達成にもつながります。まさにSDGsの目標は互いに密接不可分であるといえます」

富山市が全国の刺激に


 このほど市民からの投票により「SDGs未来都市とやまロゴマーク」が 決定しました。今後、市民・企業のSDGsの認知度を高めるため、様々な 普及展開を行っていくことになります。東福さんはこう話します。

 「今まで実際にやってきた取組みをSDGsの視点で捉えなおすことは、 環境・経済・社会の側面を統合的に捉えていくということです。皆さんには、 普段の生活の中でSDGsの目標が達成されることでどんな望ましい世界が 創られるのか考えていただきたいです」

 環境・社会・ガバナンスに力を入れる企業に対して投資を促進する「ES G投資」が世界的な潮流となりつつある中で、企業にもSDGsに対する取 り組みが求められます。しかし、企業へのSDGsの認知度は必ずしも高い とは言えません。そのため、富山市では、SDGsに対する普及啓発を企業 に呼び掛けたり、SDGsを推進する企業に対して積極的に周知を行うこと としています。折しも、日本経済団体連合会は「企業行動憲章」においてS DGsを掲げ、今後の取るべき行動指針として「Society5.0 for SDGs」を打 ち出しました。

 「SDGsモデル事業については、様々な企業の連携によるコンソーシア ムを設置し、具体的な検討を行っております。企業には、自社の事業がSD Gsに結びついていないかを検討していただきいと思います」

 富山市としては2019年度には企業向けのステークホルダーミーティン グなどを実施し、出前講座なども要請に応え、企業内の研修などにも参画し たり、支援を行う予定とのことです。SDGsについての理解を深めてもら い、目標と連動した事業が推進されることが期待されています。

 SDGsを通して、富山市の地域特性や課題が見えてきますし、あらため て「富山の良さ」に気づくこともできるでしょう。

 「これからは全国の都市・地域がSDGs推進に向けて取り組んでいくこ とになり、SDGs未来都市という名の地域間競争が生まれていきます。富 山市は、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを土台としつつ、SD Gsの目標に取り組むことで付加価値創造都市を目指します。SDGsは「正 解のない問い」と言えます。正解がないからこそ、様々な人たちとパートナ ーシップを構築して、ワクワク感や楽しみを持ちながら取り組んでいくこと が大切ではないでしょうか」

 「未来に向かってより良い世界を実現する」という抽象的な概念を、17分 野の目標で示したSDGs。富山市がSDGsの達成に向けて、果敢に取り 組み、全国の自治体と個性を競い合うことで、持続可能な世界が実現に近づ くに違いありません。「SDGs未来都市とやま」の挑戦は続きます。


●富山市役所環境政策課
富山市新桜町7-38

TEL:076・443・2053
※SDGs未来都市とやま専用ホームページ https://sdgs.city.toyama.lg.jp/

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